(弁護士 田中豊生氏 寄稿)

破産後でも再起はできる?

廃業や破産は、一つの事業の終わりであると同時に、また別の事業に向けた始まりでもあるともいえます。

しかし、特に破産の場合ですが、一旦、破産をしてしまうと二度と再起できないのではないかとお考えになり、事業継続の見通しが困難な状況であっても破産をためらわれる経営者の方もいらっしゃるかと思います。

もちろん、破産をしてしまうと、後述のとおり以後の経済活動に一定の制約がかかることは避けられません。しかし、そのような場合であっても、破産に際しての準備や、ビジネスのやり方等を工夫することによって再起することは十分可能です。

以下、再起を図るためのポイントについてご説明していきたいと思います。

破産した場合のデメリットは?

ご承知のことかと思いますが、破産すると、その履歴が信用情報に記録されます。信用情報は銀行、消費者金融、クレジットカード会社等が閲覧し、利用者の与信判断に利用します。信用情報に破産の履歴が残りますと、金融機関にもよりますが、一般的には少なくとも数年間は新規の貸付に応じてくれなくなります。したがって、再起するにあたっての資金調達が困難となります。これが最大のデメリットです。

再起する際の工夫とは?

では、上記のデメリットを克服してうまく再起を図るためにはどうすればよいでしょうか。

まず、再起する際に、元手がいらないビジネスモデルを採用することが有力な選択肢の一つとなります。特別なノウハウをお持ちの方であれば、他社にそのノウハウを提供するライセンス契約や、そのノウハウを指導するコンサルティング契約を締結するなどして、設備投資や生産コストを自分で負担せず、利益を上げるという方法が考えられます。そのほか、もともと職人の方であれば、一技術者に戻って仕事を請け、再起に向けた資金を貯めるというやり方もあり得るでしょう。

また、可能であれば再起に当たっての資金調達についてスポンサーを募ることも考えられます。 上記の方法はいずれも、「口にするのは簡単だけど、実行するのは難しい」と思われるかもしれません。しかし、会社の経営者様であれば、独自の素晴らしい技術・ノウハウや、そのお人柄に基づく魅力的な人脈をお持ちの方がほとんどです。こうした技術・ノウハウや人脈こそが上記の方法の実行に必要なものですし、これらの活かし方につきましては、中小企業診断士や弁護士にご相談頂ければ、多くの会社、経営者様と接してきた経験や専門的知識に基づき、経営者様の独自の魅力や、武器になりうるところを見出すとともに、その活かし方についてより良いアイデアのご提供や、実行のお手伝いもできるかと思います。

破産しても財産を残すことができる?

再起を考える場合、仮に破産するにしても、可能な限り手元に財産が残るようにしておきたいとお考えのことと思います。

法人や事業者の破産の場合、財産は原則として破産管財人(破産者に代わってその財産を管理し、破産手続きを進める者です。裁判所から中立の弁護士が選任され、その任に当たります。)によって換価、処分の上、現金化され、債権者への配当や破産手続の必要経費等に充てられます。

もっとも、一般的には会社と同時に代表者個人の破産も申し立ますが、全ての財産が換価されてしまいますと、破産会社の代表者の生活維持が困難となること等にかんがみ、99万円以下までの現金や、法律上差押が禁止されている財産(年金等)等は破産手続の換価の対象とならず、破産後も保有できることとなっています。このような破産者が破産後も保有できる財産のことを、自由財産といいます。

この点、意外と知られていないこととして、小規模企業共済やiDeCoのような確定拠出年金も法律上差押えが禁止されている財産ですので、自由財産に含まれます。したがって、小規模企業共済や確定拠出年金の額が99万円を超えていたとしても、破産手続による換価処分の対象にはならず、破産後も保有し続けられることになります。時折、こうした小規模企業共済が自由財産に属することを見落とし、解約して債権者への支払に充ててしまっているケースがありますので、注意が必要です。

いずれにしましても、こうした財産を最大限確保した形で破産を進めるには専門的見地から個別具体的に検討する必要がありますので、予め弁護士にご相談頂くのが適切かと思います。